『眠れる森の美女』の眠る城―ユッセ城
フランス中西部を流れるロワール川流域のロワール渓谷。ここには、中世の古城や要塞などの歴史的建造物が数多く残っています。そのため2000年には、この渓谷のうち800㎢という広大な土地が、ユネスコ世界遺産として登録されました。
ロワールの城として有名なものといえば、例えばレオナルド・ダ・ヴィンチの建築で知られるシャンボール城や、ジャンヌ・ダルクがシャルル7世に謁見した場所として知られるシノン城などが挙げられますが、実はこの地域には、まだ日本人に知られていない素晴らしいお城がたくさんあります。ロワールにはなんと全部で130以上の古城が残っており、そのうち70以上が現在でも見学可能です。
その一つが、『眠れる森の美女』の舞台であるユッセ城。そのたたずまいは、まさに、おとぎの国の物語に出てくるお城そのもの。フランスのサントル=ヴァル・ド・ロワール地域に位置します。
『眠れる森の美女』はヨーロッパに伝えられる古い民話で、17世紀のフランスの詩人シャルル・ペローの童話として世界的に有名です。ペローは、他にも『赤ずきん』『長靴をはいた猫』『シンデレラ』『青ひげ』などでも知られています。
ペローは、このユッセ城からインスピレーションを受けて、『眠れる森の美女』を書いています。
正面にはアンドレ川が流れ、背後は森に囲まれたユッセ城。多くの城が遠くからでも望め、簡単に写真も撮れるのに対して、ユッセ城の全体像は、敷地内に入らなければよく分かりません。ペローの生きた時代であれば、ここが本当に森の奥深くに佇む城であったことが伺えます。
王と王妃は、王女の頬にそっとキスをして、部屋を出て行きました。そして誰であってもここに近づいてはならないと言い渡しました。しかし、それも必要ではありませんでした。 15分もすると、お城の庭園が、大きな木、小さな木、イバラやトゲのある木々に囲まれ、絡み合い、獣も人も入ることができなくなってしまったのです。城は、塔の上の部分しか見えなくなってしまいました。それも遠くからだけしか見えないのです。(シャルル・ペロー童話集『眠りの森の美女』より)
ロワールにはたくさんのお城がありますが、ユッセ城は、物語のイメージにぴったりのお城。その姿の美しいこと。まさに古城という言葉が似合う場所です。
敷地内に入ると、庭園を通って城に向かいます。季節によっては花の咲き乱れる庭園を歩くことができます。ロワールの各城はどこも素晴らしい庭園が整備されており、そこを見学するのも楽しみの一つです。これだけの花で彩られた庭を眺めれば、ペローが妖精を描きたくなるのも分かります。
メインの建物はこちら。左右対称の美しい作りです。大部分が15世紀から16世紀のもので、11世紀の城塞の基礎上に建設されています。
城によっては中に何も置かれていないこともあるのですが、ユッセ城は家具や調度品、また装飾品がそのまま置かれており、人形を使ってかつての暮らしを再現しています。